Issue 課題
- 日本の医療を、 世界水準の医療へ
- 日本の医療技術は世界トップレベルといっても過言ではない。しかしその一方、グローバル展開においては諸外国の後塵を拝しており、海外に病院を設立しようとしても、その運営を担う人材が育っていないという状況に直面していた。国家戦略特区制度の成立とともに、国際医療福祉大学・高邦会グループは千葉県・成田市と合同で「医学部新設の解禁」「国際医療学園都市構想」を政府に提案。企画書にはグローバル医療人材の育成に焦点を当てた「革新的な世界水準の医療教育モデルの実現」をはじめ、いずれ各国の医療をリードし、日本の技術を輸出することになる留学生の獲得にも力を入れることなどが盛り込まれた。このアイデアは政府にも歓迎され、約40年ぶりとなる医学部の新設が決定。プロジェクトチームは構想フェーズから、実現フェーズへと移行することになる。
長年にわたる国際連携の実績が、
悲願達成の大きな後押しになった。
榎森日本政府の戦略に合致していたことはもちろんですが、私たちが理学療法士や作業療法士などの育成を通じて中国やベトナムとの国際連携を積み重ねてきたこと、留学生を受け入れ、母国での活躍を支え続けてきたことも大きな後押しになりました。開設以来、チーム医療を重視してきた国際医療福祉大学にとって、その中核を担う医師の育成は長年の悲願とも言えるもの。政府による提案の承認は医療界だけでなく、本学の歴史が動き出した瞬間でもありました。

Solution 解決策
- 国境を越え、 300人の医師を招聘
- 提案の承認は、医学部開設の始まりにすぎない。「医療は人」と評されるように、教育もまた人である。設置認可を得るためには、医師不足が叫ばれる時代に300人のドクターを揃える必要があった。さらに、教員たちが高度な医療技術、知識、国際経験に加えて「英語による指導力」も兼ね備えていなければならない。特に新医学部では「1・2年次に医学科目のほぼすべてを英語で学修する」ことが最大の特長となっており、国内でこれほどの長期にわたって英語指導の経験がある医師を見つけることは極めて困難だった。文字通り、前例のない採用活動である。プロジェクトチームは国内外問わず奔走し、ときには理事長自らがトップ交渉を行って志望者を招聘。その縁を育みながらも面接では英語による模擬授業を課し、そのポテンシャルを厳しく見極めていったと言う。
面談で重視したのは、「共に生きる社会」を託せるかどうか。
榎森非常に難易度の高い採用活動でしたが、幸いだったのは国内外に新医学部のコンセプトに共感してくださる方が大勢いたこと。「革新的な医学部をつくるのであれば」と国内外の医師たちが本学の思いに共感してくれました。我々が面談で特に重視していたのは、本学の建学の精神である「共に生きる社会」を託せるかどうか。互いを認め合いながら患者さまファーストで思考できる。最終的に、そんな人格も兼ね備えたたくさんの医師が本学の仲間に加わってくれました。

Outcome 成果
-
いつの日か、医学部の
代名詞になることを願って - 世界最大級の医療シミュレーター。世界水準を上回る90週におよぶ診療参加型臨床実習。国際経験豊富な教員に、各国から集まった留学生たち。2017年、革新的な医学部の登場を祝うため、式典には総理大臣のビデオレターが届けられた。さらには、各国の保健大臣や医科大学学部長も出席したと言う。そのセレモニーから6年。試行錯誤を繰り返しながらも、医学部は2023年に無事に第一期の卒業生を送り出した。国家試験合格率は全国トップクラス。海外実習でも学会発表でも物怖じしない。そんな学生たちの今後が期待される一方、大学内では依然として安堵の表情は見られない。彼らのゴールは「育成」ではなく、あくまで「活躍」ということなのだろう。いつの日か卒業生が世界のリーダーとなり、国際医療福祉大学が日本の医学部の代名詞になる。そんな未来を願い、彼らは今日も学生支援のために知恵を絞り、奔走し続けている。
医学部の開設はもちろん、
学生の成長がなによりも誇らしかった。
榎森開設式典も誇らしい気持ちでいっぱいでしたが、それ以上に嬉しかったのは学生たちの成長です。2年間、英語で医学科目を学ぶことは簡単ではなかったと思うのですが、日本人学生や留学生が講義の外でも互いの得意分野を活かしながら補い合っている姿を見て温かい気持ちになりました。そして何より「彼らであればきっと、言語も文化も制度の違いも越えて世界水準のチーム医療を実現できる」と確かな手応えを感じることができました。