Issue 課題
- 病院不足が生む、 医療機関の逼迫
- 今回の舞台である国立チョーライ病院は、ベトナム屈指の医療機関だ。現地では「最後は誰もが通院する」と言われ、1日に数千人もの患者が外来に訪れる。しかし、それは裏を返せば、医療機関不足が深刻であることの証明でもある。当時、中堅病院は患者の信頼を失っており、国立チョーライ病院は約2000床のベッドに3000人が入院しているほど逼迫していたと言う。当然、病院数の拡大や信頼できる中核病院のさらなる建築も視野に入るが、そのためには時間をかけて医師や看護師を育成する必要がある。ベトナム政府が患者数そのものを減らす「予防医学」の普及に目を向けたのは必然だったのかもしれない。そして、同国の政府高官の目に留まったのが、20年にわたって医療協力を続けてきた国際医療福祉大学・高邦会グループの存在だった。
“予防医学をどう根付かせるか
その想いが共創の後押しになった”高木国際医療福祉大学・高邦会グループが長年にわたってベトナムの医療、日本の予防医学に貢献してきたことはもちろんですが、最終的に同プロジェクトが実現したのは「予防医学がなぜ重要なのか」という私たちの想いが伝わったから。世界中の医療グループがベトナム政府との交渉を進めるなかで、ただいたずらに最先端のシステムを売るのではなく、人材育成を見据えたプランを提示したことが重要な分岐点になったと考えています。

Solution 解決策
- 世界最高水準の検診技術を現地に継承していく
- 医療は機器ではなく、人。そう評されるのには理由がある。仮に高精度のレントゲン装置を導入したとしても、その1枚1枚を正しく撮影するのは診療放射線技師であり、さらにそこからドクターが身体の異常を正確に読影しなければならない。あくまで日本人医師の肌感覚ではあるものの、当時の現地病院の診療正答率は5割から6割ほど。ベトナムに予防医学を根付かせるためには、まずはこの医療従事者の技術・知識を底上げする必要があった。国際医療福祉大学は最高水準の検査機器の導入に加え、3ヵ月間におよぶ日本での実地研修を実施。その後も定期的に大学の主任教授をベトナムに派遣し、世界水準である正答率9割以上となるまで何度も繰り返しトレーニングを行い、検診技術を現地に根付かせていった。
“本当の意味での医療協力を実現するために、
最高水準の技術の継承にこだわった。”高木これまで世界中の医療機関を目にしてきました。数々の現場を見るなかで確信したのは、やはり日本の医療技術・サービスレベルの高さは、世界最高水準にあるということ。その一方、国際支援を通じて建設された病院内で、人材が育っていないばかりに最先端機器が埃をかぶっている姿も見てきました。本当の意味での医療協力とは何か。その本質を実現するために、特に「教育(技術の継承)」を大切にしながら、プロジェクトの推進が行われました。

Outcome 成果
- 検診センターの成功と、 新たな医療協力の始まり
- 2018年、ベトナム初の健康診断専門施設となる「ドック検診センター」がその歴史をスタートさせた。「国内で日本式の健康診断を受けられる」とあって、開設以来、予約枠に穴が開く日はないと言う。予防医学の定着に向け、ベトナム政府も確かな手応えを感じたに違いない。首相、副首相から労いの言葉とともに打診があったのは、社会課題解決の本丸とも言うべき日本式病院の新設だった。莫大な費用、国境を越えての交渉、現地の医師や看護師の育成。検診センターに比べ、その実現にかかるコストは計り知れないものになる。しかし、たとえリスクの大きな投資であっても、医療協力の歩みを止めることはない。国際医療福祉大学・高邦会グループの理念は「生命の尊厳 生命の平等」。どんなに時代が移り変わっても、創設から大切にしてきたその理念は変わらない。根幹に流れる「医療を通じて人と社会に貢献する」という想いこそ、挑戦の原動力になっている。
“ビジネスの戦略の、その先にあるもの。
その国をより良くしたいという想い。”
高木医療協力という世界では、資金も時間も、覚悟も必要です。ベトナムのプロジェクトはようやくマネタイズの道筋が見えてきたところです。しかし、たとえ数十年間、その国に投資したとしても資金を回収できない可能性はあります。もっと言えば、構想の実現も不可能な可能性もあります。もちろんビジネスにおける戦略は重要。しかし、それ以上にその国の未来をより良くしたいという想い、そして長期にわたってパートナー関係を築く覚悟が何よりも大切だと考えています。